戦略的に民事再生を申し立てる具体的方法

1 はじめに

会社の経営が悪化したが、民事再生手続により、会社の再生を図りたいという場合に検討すべきこと、なすべきことを解説します。

民事再生は、一定の債務弁済を行う再生計画案を立案、実行することによって事業の継続を図る法的手続となります。

破産と異なり、事業の継続をしていく点で、様々な問題が出て来ます。

様々な問題をクリアし、「民事再生」というプロジェクトを遂行して、会社を再建することができるかどうかは、戦略的に行うことができるかどうかに懸かっているといっても過言ではありません。

そのためには、まず、民事再生手続についての正確な知識を持っておく必要があります。

2 民事再生手続とはどのような手続か

民事再生は、資金繰りに窮した会社が、事業を行いながら、再生計画案を策定し、債権者集会で認可されることで、破産を回避し、事業継続を行っていくという手続です。

したがって、裁判所への民事再生申立てを行った後も、事業を停止することなく継続していきます。

原則として、民事再生申立後も、従前の経営者が会社の業務を遂行し、会社財産の管理処分権限を持つことになります。

通常、裁判所から監督命令が下され、監督委員が選任されるため、重要な処分については監督委員の同意が必要となりますが、主体的に動くのは、従来の経営者です。

したがって、多くの場合、民事再生は、従来の会社の経営者などの構成員が、主体的に事業の再生を図っていくために申し立てられる手続であると言えます。

裁判所への申立後、概ね1週間程度で開始決定が下され、債権者や取引先への説明を行い、理解を求めながら、事業を継続し、約5か月後に開催される債権者集会で、再生計画案の可否が諮られることになります。

債権者集会の議決は、再生債権者の頭数の過半数、かつ、債権額の過半数を以て採択されます。

これによって賛成多数で認可されれば、その履行を行っていくことになります。

3 どのような会社が民事再生を申立てすることができるか

「民事再生と破産とはどのような違いがあるか。あなたの会社はどの手続を選択すべきか。」でも述べましたが、民事再生を申し立てるためには、一定の要件を満たす必要があります。

(1)民事再生を行えば事業を継続できるか

民事再生を申し立てるためには、「事業を継続」することが大前提となります。
民事再生開始決定以前の債権は、一旦は、棚上げ(弁済禁止)となりますが、その上で、事業として資金が回る状況が無ければなりません。

具体的には、営業利益が黒字でなければ、たとえ金融負債の弁済をストップしたとしても、事業を継続していくことはできません。

もし営業利益が黒字でなければ、従業員をリストラしたり、事業所を一部閉鎖するなどして、ランニング・コストを抑える必要がありますが、一部の従業員を解雇するとしたら、その退職金の負担を考慮する必要がありますし、事業所の一部閉鎖においても、売上げの低下を伴いますので、十分に収支を検討する必要があります。

さらに、民事再生申立てによる信用不安、それに伴う売上げの低下も予測する必要があります。

仕入先との関係も重要です。もともとの仕入先の多くは再生債権者として、弁済をストップされてしまいますので、以前と同様の取引を継続することは困難となります。

現金での取引や、新たな取引先の開拓を図るとしても、以前と同様の条件での取引ができるかは検討する必要があると思います。

(2)申立時に用意すべき費用

民事再生手続の申立て時には、大きく分けて、①裁判所の予納金、②弁護士報酬、③当面の運転資金が必要になります。

①裁判所の予納金は、負債総額に応じて裁判所に納めることを要求されるものであり、大阪地方裁判所の運用では、次のように定められています。

申立時に用意すべき費用
5000万円未満 ・・・・・・・・・・ 200万円
5000万円~1億円未満 ・・・・・・・・・・ 300万円
1億円~5億円未満 ・・・・・・・・・・ 400万円
5億円~10億円未満 ・・・・・・・・・・ 500万円
10億円~50億円未満 ・・・・・・・・・・ 600万円
50億円~100億円未満 ・・・・・・・・・・ 700万円

②弁護士費用は、申立代理人となる弁護士との契約に基づくものですので、弁護士によっても異なる可能性がありますが、民事再生の申立ての弁護士費用としては、一般的には、400万円~500万円を要すると思います。

③当面の運転資金についても、用意しておかなければなりません。

会社が民事再生を申し立てたことにより、前述のように、信用不安が起こり売上げが下がりますが、家賃や人件費などの固定経費は必要となります。

また、民事再生申立てにより、支払手形の振り出しはできなくなりますので、仕入れなどの経費は、すべて現金で支払う必要があります。

申立後、数か月の運転資金を確保しておく必要があると思います。

(3)再生計画案が立案できるか

民事再生においては、事業の継続により利益を上げ、その利益から、再生債務の支払いを行っていくという計画になることが多いと言えます。

事業の継続により、再生計画案が履行できるという事業計画が描けるか、その計画はどの程度の履行可能性があるか、という将来予測になります。

もう一つ大きな問題は、「債務免除による税金(債務免除益)が支払えるか。」という点です。

損失との兼ね合いもありますが、債務免除(先ほどの例では1億8500万円)には課税がなされることに注意する必要があります。

再生計画案は、このような債務免除課税についても注意して立案する必要があります。

(4)再生計画案に同意する「大義」があるか

ここ数年、再生事件を行っていて、多くの債権者の方からこのような質問を投げかけられることが多くなりました。

以前は、「破産の場合よりも配当率が高いので、債権者である金融機関にとってもメリットがある。」という説明のみで賛成してくれていた金融機関の方が、「配当率だけでは『賛成』の稟議が上げられない。」と言うようになってきたのです。

債権者のいう「大義」とは、会社を存続させる社会的意義があるかどうか、という問題です。

例えば、会社が地域社会に貢献し不可欠の存在となっているか、とか、従業員を多く雇用し彼らの生活を支えているかどうか、などです。

このような社会的意義を理由として、再生計画が否決される場合もあるということは注意しておく必要があります。

(5)経営者・従業員の熱意と能力があるか

民事再生を提起する上で、一番重要といってよいかもしれません。

経営者(のみならず従業員も)、その会社を何としても再建していくという熱意があるかどうかによって、結論は大きく異なります。

経営者の方は、再生手続中、何度も「いっそつぶしてしまった方が楽じゃないか。」と思うことになります。

それでもやり抜くことができるかどうかは、経営者の方のみならず、それを支える従業員、家族みんなが一丸となる必要があります。

また、再生できる「能力」があることも重要です。

代表者の人脈やこれまでの取引によって培われた信頼関係によって、再生が上手くいくこともあれば、上手くいかないこともあるのです。

4 Xデーの決定

民事再生を申し立てることを、債権者をはじめとする取引先に示し、弁護士が受任の通知を送付するタイミングを、「Xデー」といいます。

Xデーは、主として会社の資金繰りや申立てが惹き起こす影響を考慮して決めることになります。

手元資金が少ない時期に申立てを行うと、申立後の資金繰りが破綻してしまうことになるからです。

関係者や取引先が混乱する時期に申立てを行うことは、悪影響を招きかねないため、できるだけ混乱しないようにXデーを選定する必要があります。

難しい問題ですが、債権者の一部にとって、あまりに不誠実な時期をXデーとすると、その債権者から反感を買い、再生計画の認可に支障を来すこともあります。

民事再生手続の場合、債権者集会における認可を前提としますので、債権者が不公平感を抱かないよう、細心の配慮を必要とするのです。

さらに、内部的な問題も考慮する必要があります。

民事再生は、経営者だけでなく、従業員らも一丸となって対処し、再生に向けた努力を行う必要があります。

内部的に、いつ民事再生の発表をするかも、Xデーとともに検討しなければならないのです。

5 Xデーまでになすべきこと

民事再生の場合、Xデーとともに裁判所への申立てを行い、裁判所の保全処分の発令を受けるのが一般的ですので、事前に申立て準備をすべて整える必要があります(通常、Xデーの1週間以上前には裁判所への相談を行っておきます)。

さらに、Xデーには、主たる債権者や取引先への挨拶回り(お詫びと協力への依頼)を行う必要がありますので、その具体的なスケジュールを決めておく必要があります。

一方、会社には様々な取引先からの連絡がどんどんまいりますので、その対応方針も決めておかなければなりません。

民事再生を行うというだけで、信用は大幅に低下します。Xデーの対応で、さらに信用低下を招かないように努力する必要があります。

また、申立ての混乱により、営業店舗や倉庫などに、納入業者の商品引き上げ等のおそれがあります。これらに対する対応も事前に定めておき、混乱が生じないようにしておく必要があります。

Xデーまでには、民事再生申立後の事業計画を立てておく必要があります。

再生の方向性を立てておかなければ、申立後に何をすべきか、計画どおりに進んでいるかどうかも判断できないからです。

事業計画において、不動産などの資産売却も検討している場合は、速やかに売却手続に移行できるように準備しておくこととなります。

申立後、債権者への対応として、債権者説明会を開催する場合もあります。

このような説明会により、一括して、今後の進行についての説明を行い、債権者に対する説明責任を果たすことが可能になりますので、事前にその準備もしておくと良いと思います。

6 民事再生申立後の対応

民事再生申立てにより、開始決定がなされれば、事業を継続しつつ、再生計画案を策定していくことになります。

重要な処分については、事前に監督委員の同意を得る必要がありますが、通常の業務は会社の判断で行い、毎月事業報告を行っていくことになります。

この時期、事業収支は一旦は落ち込むことが予想されますが、それでも一定の利益を上げることができるかが、後の再生計画案の履行可能性の判断に影響しますので、必死で行うこととなります。

7 戦略的に民事再生申立てを行うということ

民事再生は、1つの大きなプロジェクトとして行われるべきものですので、そのすべてに戦略的な判断が要求されます。

債務の免除を含む再生計画案について、債権者から過半数の同意をとるというのは至難の業です。

しかし、成し遂げたときには、会社が得られるメリットは非常に大きいと言えます。

従前の経営者のコントロールの下で会社の再生を図ることができる点は最大のメリットだと思いますが、それだけに、成功するか否かは、経営者の判断に依存する部分が大きいといえます。

民事再生手続には、手続を代行するだけでなく、経営者の参謀としてその判断をサポートする弁護士の役割が非常に大きいと言えます。

最後に、民事再生手続を戦略的、効果的に利用するケースもあることをご説明しておきます。

(1)事業停止へのソフトランディング

1つは、事業停止を余儀なくされる場合でも、最初から破産申立てを行うのではなく民事再生を申し立てる場合です。

もちろん、民事再生手続がうまく進めば最良ですが、民事再生手続が途中で頓挫したり、再生計画案の賛成が得られない場合には、破産手続に移行することとなります。

もっとも、民事再生を申立て、開始決定を受けることにより、仕掛かり中の仕事を完成することも可能になりますし、売掛金や貸付金の債権を回収していくことが可能になりますので、最初から破産申立てを行うよりも、関係者にとってメリットが大きい場合もあり得ます。

民事再生手続中に、少しずつ事業を縮小していくことで、うまく破産手続に移行できる場合もあるのです。

(2)M&Aを行う場合

会社の事業について、別の企業へのM&Aを行うために、民事再生手続を利用する場合もあります。

民事再生手続の中で、事業譲渡を行ったり、株式譲渡を行うことで、裁判所(監督委員)の監督下で適正な手続が行うことが可能となり、後の否認請求等により、効力を否定される恐れも回避できます。

申立後にM&Aの話が持ち上がることもありますが、申立時点でM&Aの内容が決まっている場合(プレパッケージ型民事再生)もあります。

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